まっしろな嘘

ニンゲンを勉強中のヤヤネヒによる、なんかいろいろ。

日本には『上昇婚』なんてない その(1) 上昇婚って何でしょう?

はじめに

最初に書いておくけどタイトルは飛ばしです。まったくないはありえないので、

『ほとんどない』くらいが正解だと思う。

時流に伴って流行り廃れてはインターネッツ界隈で適当な形で復活するバズワード、『上昇婚』及び、『女性の上昇婚志向』なる擬似理論にいちいち突っ込むのに疲れてきたので、以下、過去に書いたエントリを簡略化・短く切った形で、改めてまとめていく。

上昇婚』とは何か

バズワードとしてではなく、もともとの意味をおさらい。

じょうしょうこん hypergamy 花婿とその親族の世襲身分が花嫁のそれより高い婚姻のこと。この逆を下降婚 hypogamyという。すなわち社会的に是認されたカースト外婚をいう。 (ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)

「厳格な身分社会での、下位カーストの女性と上位カーストの男性と婚姻」。所謂玉の輿。これが所謂ネット言論界隈で頻用されるようになったのは、山田昌弘氏の著作、「結婚の社会学―未婚化・晩婚化はつづくのか」が初出と考えられる。

この本における、ハイパーガミー(女子上昇婚)の定義は以下。

妻が夫の家に入る嫁取り婚を原則とする社会では、女性にとっての結婚はまさに「生まれ変わり」である。それゆえ、女性はよりよく生まれ変わるために、自分の父と同等以上の家の男性と結婚する。 それゆえ、女性は、よりよく生まれ変わるために、自分の父親と同等以上の家の男性と結婚する。それに対して、男性は、結婚によって、結婚によって、身分、階層、職業などは変わらない。このような結婚制度を「ハイパーガミー(女性の上昇婚)」と呼ぶ。

山田昌弘氏の定義を要約すれば、日本社会における「上昇婚」とは、 「女性が、経済力・学歴・出身地などが、生家(父親)の社会階級よりも上回る男性と結婚すること」 ということになる。続いて以下。

社会が近代化され、職業の世襲が原則としてなくなり、停滞経済から成長経済へと移行すると、男性にも「階級上昇」のチャンスが出てくる。……階級の低い男性(特に次男以下)にも、自力で階層を上昇させて、妻をめとる可能性がもたらされた。 特に、第二次世界大戦以後の高度経済成長期は、この条件に恵まれていた。終戦直後、戦死による男性不足から、一時的に女性の結婚難が見られたが、高度成長期には、男女とも早婚かつ皆婚状況が出現する。

第一次産業から第二次産業への過渡期、国内の男性全般に身分の転移が見られた。親元で農業に就事し、嫁入りしてもそのままの階級で一生を終える人生が主であった女性にとって、高度経済成長期に「階級上昇した」男性との婚姻は「上昇婚」そのものであった、というのが山田昌弘氏の指摘である。

戦後の婚姻率・離婚率については下図の通り
(ガベージニュースの不破雷蔵氏のYahoo寄稿記事より、注釈は筆者) f:id:chat_le_fou:20180923074231p:plain

*1

終戦直後の1947年に大きな山があったあとで急落、その後、高度経済成長と共に上昇し、終了となる1970年代前半で婚姻率の低下が始まっているので、相関としては誤りではないと考えられる。

この「上昇婚傾向による婚姻インセンティブと、婚姻率の上昇」は、高度経済成長期の(しかし、第一次ベビーブーム)限定ボーナスだった。日本の婚姻率はこの後、安定成長期への推移と共に緩やかに下降していく。

 まとめ

本来の人類学的定義に乗っ取れば、上昇婚とは「男尊女卑、かつ厳格な身分社会における、カースト外婚」、つまり玉の輿。

また、「上昇婚」の主たる紹介者である社会学者の山田昌弘*2は、日本を性役割分担制度の厳格な階級社会としての側面から捉え、「男性側の学歴、収入、出身地(社会階級)」が生家の父親を上回る男性との結婚を「上昇婚」と定義しましたが、ここでも、社会階級と、及性役割分担制度の存在が前提にある。

日本社会で「上昇婚」による強い婚姻インセンティブによる婚姻率の上昇が実現していたのは、戦後の第一次中心から第二次産業中心への転換期、すなわち高度成長期のみ。もう少し話を広げるならば、生まれた村で所帯を持ち、働き、老いる将来よりも、当時ロールモデルとして喧伝された、「アメリカンホームドラマような白い家」「マイカー」「文化的で豊かな暮らし」核家族制度に、男女がともに憧れた帰結と言えるかもしれない。 *3

しかし、非常に特殊な状態であり、1970年代以降、再現されていない。再現される望みも低い社会総員のライフコースや家族制度が旧来の形で一気に「上昇」する可能性は限りなく低い。デフレ真っ只中の現状から突然ポンと若い男女の生活が良くなるとは考えづらい。

なお、以上の話は「性役割分担制度の固定化した社会では、男女の収入に格差が生じる(女性は家庭内での家事労働や育児等を引き受けるため、同一社会階級内だと男性より収入が低い)」前提に立っており、バズワードとして使われる、「男女収入格差=上昇婚志向」というような雑な話ではない。

次回予告

「今の社会は男女平等になったから旧来の理論は成立しない!!!」という方向けの、現存する男女格差についての諸々とか、 あと弱者男性論に(何故か)(殆ど、大手だとほぼ絶対に)出てこない、ワープア女性の話とか、統計並べてみようかと…おもったんですが、先に同類婚について話さなきゃいけなかったので先送りになりました。「玉の輿中心社会」なんて無いとして、実際はどういう婚姻傾向がなのかって話です。

東大・社会学の先生に聞いた「私たちのまわりに“いい男”がいない理由」|ウートピより引用 f:id:chat_le_fou:20180923075853p:plain そんなわけあるかいなと思いながら読んでいたウートピの記事より。

*4

www.masshirona.red

*1:上昇婚なんかより戦時戦後の乱交下のほうが凄いけどナンデ? つり橋効果?

*2:『婚活』『パラサイトシングル』などの数多の用語の発明者(ぶっちゃけ広告業界ジェンダー政策向けの御用コピーライt)であり男女共同参画会議のポストをガッチリ握っている御任

*3:というか実態を考えると『出稼ぎでないと家を出れない農家の男性、結婚しないと(略)の女性が結婚を理由に生地を離れただけ』、実質的にはほぼ同類婚なので、わざわざ上昇婚とか生まれ変わりとか情緒的な表現って必要でした? 感が強い

*4:赤川先生の記事は嫌いじゃないけど、この図は現実見えてなさすぎ…