まっしろな嘘

ニンゲンを勉強中のヤヤネヒによる、なんかいろいろ。

日本には『上昇婚』なんてない (2) 同類婚社会、日本

前回のおさらい

  • 学術タームとしての『上昇婚(Hypergamy)』は、「男尊女卑、かつ厳格な身分社会における、カースト外婚」、つまり玉の輿のことを指す。

  • 上昇婚』を紹介し、バズワード化させた山田昌弘氏の定義によれば、日本における上昇婚とは、「性役割分担制度の残る、かつ階級社会としての側面を持つ社会において、女性が生まれた家の家長より学歴・収入等を上回る男性との結婚を望む」現象である。

  • 上昇婚志向=「階級間上昇を望む傾向」が実在するとして、本邦において婚姻行動のインセンティブとして作用していたのは、高度経済成長のごく限られた期間に限られる。

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それでは今回の話。

日本は同類婚社会である

上昇婚」と同時期にインターネットで流行りはじめたタームとして、「パワーカップル」「ウィークカップル」がある。これらの言説は、おそらく「夫婦格差社会」に拠る。*1

夫婦格差社会 - 二極化する結婚のかたち (中公新書)

夫婦格差社会 - 二極化する結婚のかたち (中公新書)

ただ、「パワーカップル」「ウィークカップル」の用語を援用したインターネット上の言説には、「上昇婚志向」とセットのものが多かった(2016年当時)。女性が『上昇婚志向』を持つが故に、世帯間の貧困格差が拡大する、というものである。 しかし、「夫婦格差社会」は、同類婚社会としての日本における配偶者選定と、それによる世帯間の格差拡大を論じた著作である。バズワードとして「パワーカップル」がインターネットで使用される際、同著の内容がまともに踏襲されていたかは非常に怪しい。

同著は、一夫一婦制においての選定行動の基準として、「相補」「類似」2点を仮説として提示する。前者は上昇/下降婚的、後者は同類婚的と言えるだろう。その上で、しかし、「すべてにおいて相補的であったり、類似的であるのではなく、各変数において相補的になったり、類似的になったりしているのではないか」との仮定から、「妻が事務職の場合を除いた残りのすべてで、夫が同じ職業に就いている場合が最も高」いと指摘する。その上で、高卒の男性と高卒の女性、大卒の男性と大卒の女性の婚姻率の高さから日本はいまだ同類婚が主流であると結論している。(P.67)

なお、資料は以下、厚生労働省の人口動態職業〜産業別統計にあたるので確認されたい。 f:id:chat_le_fou:20160526153139p:plain *2

同類婚(homogamy)とは何か。

上昇婚(hypergamy)と同じ、人類学タームである。

共通の社会的、肉体的、もしくは精神的特徴を持つ者同士が結婚することを同類婚 と呼び、その逆を異類婚(非同類婚) と呼ぶ。 >Weblio 辞書 > 学問 > 人口統計学辞書

同類婚社会と、格差拡大

この顕著な例が、「パワーカップル(高所得世代)」「ウィークカップル(低所得世代)」である。前者として挙げられるのは、「医師」「法曹」「研究者」「管理職」といった士業、後者として挙げられるのは、年収300万円以下、200万円以下の低所得男女である。低学歴・低所得同士の男女が貧困世帯となり、貧困を原因とする離婚、養育制度の破綻などにより、貧困の連鎖が生じている現状が「夫婦格差社会」においては指摘されている。

余談だが、1990年代までは高学歴女性も婚姻によって家庭に入っていたため、格差拡大が抑えられていたとのブログ記事をみつけた。統計データは確認していないが、事実であるとすれば、推測するに、この場合の「共通の社会的特徴」は、おそらく生家の職業・学歴・土地などの社会階層によると思われる。*3

男も女も農民ならば、稼得力なぞ関係ない。男女共に体が丈夫で、よく働いて知恵があるほうがよい。子どもの世話は共同体全体で行われ、下級農民は下級農民同士で、地主、商家、士族、貴族と、「それなりの家同士で」結婚していた。戦 これが変化したのは、「女は家、男は企業」の戦後の家庭モデルによるものが大きい。よく『女性差別』と呼ばれているが、その表現はあまり適切ではない。実質的な階級社会の存続を、『一億総中流』の幻想が覆い隠した。後の企業中心型社会保障モデルにおいては、女性の稼得可能性は低い。同一労働同一賃金はなく、年金序列型の労働コースに乗れない女性の仕事は、家事をこなし、子供を育てることだった。やむを得ずパートタイム労働を行う女性の多くは「自立した女性」ではなく、現在の非正規労働者同様、社会保障もなく、夫側の正規労働収入を前提とした、低い賃金を設定され、時間を搾取される存在だった。これを水準に定められたのが、現在の最低賃金である。当たり前だが、婚姻による寿退社か、終わらない非正規労働以外の選択肢に乏しい就業女性が、単独で将来の展望を描くのは難しい。

これは性役割分業を重視した制度上の問題であって、収入格差を「女性差別」と呼ぶ立場には筆者は反対である。 配偶者選択において、重要なのは、階級差の中にあって、「戦後モデルの核家族を形成できる」ことである。生涯にわたる世帯収入の見込みは、配偶者選定において大きな指標となる。男性が中心で労働に就いているのであれば、男性の収入が一定となるのは当然の帰結だが、企業型社会保障の崩壊によって非正規労働者の増加・共働き化が進んだことで、世帯内の収入の男女格差は狭まりつつある。

また、昨年のニュース記事で、高学歴同士の「同類婚」増加 子育て世帯の約18%は両親ともに大学・大学院卒 | キャリコネニュースというものがあったが、注目すべきは、高学歴同類婚の増加以上に、中卒男女の婚姻率が1%を下回ったことだ。これは、格差拡大により、同類婚志向によってカップリングされる中卒男女の収入が、「夫婦格差社会」において世帯形成に必要な収入のボーダーとされた300万円を(男女双方で)割り込んだことが原因ではないかと推測される。男女共に、核家族を形成できないのであれば、結婚する理由がない、と判断する個人が多いためであろう。女性上昇婚-男性下方婚が維持されているのであれば、この現象は起きない。年収の低い男性は、更に年収の低い女性と配偶しているはずである。

同類婚『志向』ゆえに、マッチングは困難になり、格差は拡大している。

「女性に上昇婚志向がある」というのであれば、年収300万円帯の中流男性がより下の所得帯の女性と婚姻していてもおかしくないが、当たり前ながらそんな事はなく、彼らもまた、生計維持が可能な方向で選定行動を取っている。最も層が厚いのが、世帯収入600~700万円の共働き世帯。減少傾向にあるのが専業主婦だが、子持ち専業主婦モデルはもはや上流、最低でも中上流階級の営みとなりつつある。

今回のまとめ

  • 日本社会における「上昇婚傾向」は、原則として強くない。原則的には同類婚主体の社会である。

もう少し細かく言うならば、配偶者選定の在り方は、「山田上昇婚」時代から、日本の婚姻傾向は村落共同体内部での内婚制から、男子家父長・階級社会におけるイエ同士の同類婚、学歴・職場による同類婚といった変遷を迎えてきており、統計上の男女の収入格差は、戦後の性役割分担制度によって起きた外見上の変化に過ぎない。日本の配偶者選定の本質は、同一社会集団内の同類婚にある。 日本のケースに限って言えば、戦後企業-家族型の社会保障モデルにおいて男女の賃金格差が生じ、家庭内の男性側収入が高くなっていた現象を、「上昇」婚と呼ぶのは不適切であると考える。

次回について

前回、男女の賃金格差についての統計を……と言っていてまったく出す機会が無かったんですけど、その前に一つ、しておかなくてはならない話があるので、次回に続く。共働き化が進む実態に反して、『上昇婚』論 が跋扈するのは何故か。

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*1:リライト前のタネ本が2014年でちょっと古いのでデータも古いです、ご容赦

*2:古い本なのでちょっとデータが古い

*3:データあったらください、興味あるので